はらぺこ僧侶
「やればできる」の果てにあった強制終了
かつての私は、「自分でなんとかする」を信じて走り続けていました。
「やればできる」。そう言い聞かせながら、止まることを知らない生き方を選んでいました。
しかし2020年、胃がんが発覚し、胃の全摘出手術を受けたことで、その前提は静かに崩れました。
失ったのは健康だけではありません。
「働かなきゃいけないのに、働けない」
役に立つことでしか自分の価値を感じられない…そんな心の癖が露わになった瞬間でした。
私の人生は、強制終了を迎えました。
Metanoia ― 心の向きが変わった日
小学校の頃、更生目的で連れて行かれた教会で、私は初めて「イエスさん」に出会っていました。
当時の私にとっては、「人として尊敬できる存在」でした。
でも…大人になった私は、その理想とは裏腹に、自分の力で証明し続ける人生を選んでいました。
2025年、再び教会の扉を叩いたとき、私は初めて知りました。
イエスは理念ではなく、私を赦し、立たせ直す愛そのものであるということを。
ここで言う「罪」とは、単なる宗教的なラベルではありません。
愛からズレてしまう心の向き…
「自分でなんとかしなければ」と握りしめ続ける傾きのことでした。
その向きが変わったこと。これが私にとっての回心(Metanoia)です。
メタルと祈りの融合
私は昔から浜田麻里さんを敬愛し、聖飢魔IIやB'zなどのジャパニーズロックやヘヴィメタルに心を救われてきました。
痛みを知る音楽と、祈りの静けさ。その両方を抱えて鳴らしたい。
痛みを知る者にしか鳴らせない轟音(メタル)と、祈り(讃美歌)。
この二つを融合させた「Gothic Hymn Metal」を通じて、私は見返りを求めない愛を表現しています。
明日の命もわからない現代において、
愛へ向き直る道を、沖縄から静かに鳴らし続けています。
BIOGRAPHY
更生目的で連れて行かれた教会で、初めて「人間・イエス」と出会う。
訪問販売で成果を上げるが、人間関係の摩擦を重ね、自らの立ち位置を見失っていく。
「やればできる」と働き詰めの日々を送るが、心の奥では満たされない感覚を抱えていた。
「働きたいのに働けない」という現実に直面し、存在価値の前提が揺らぐ。
立ち止まることを受け入れざるを得なくなる。
イエスが「愛そのもの」であると知り、心の向きが変わる(Metanoia)。
毎日の腹痛と向き合いながら、Gothic Hymn Metalによる表現活動と、
人生を愛の方向へ組み直す伴走(キャリア支援)を行っている。
鎧の下
夜中の二時。
冷蔵庫のモーター音が、短くうなった。
部屋はそれだけで満ちている。
部屋の隅で、アレクサのリングが薄く青く光っている。
誰も話しかけていないのに、そこにある。
眠剤は三時間前に飲んだ。
今夜も効かなかった。
へこんだお腹に手を当てる。
そこは平らで、静かだ。
胃を全摘して五年になる。
痛みというより、空白の輪郭だけが夜になると浮かび上がる。
体は正直だ。
なくなったものを、覚えている。
不眠が始まったのはいつだっただろう。
会社が倒れた頃か。
それとも、あの電話のあとか。
知らせが届いたのは、すべてが終わったあとだった。
親戚の声は妙に平坦だった。
「二人とも、もう見つかったから。式も終わったよ」
心中、という言葉は使わなかった。
でも私にはわかった。
お葬式にも、お墓にも、行かなかった。
行けなかったのか、行かなかったのか。
今も答えは出ていない。
あの頃の私には、玄関のドアノブさえ重かった。
父が使っていた整髪料の匂いや怒号。
母の台所の、味噌汁の湯気、唐揚げの味。
そういうものだけが、やけに鮮明に残っている。
思い出すたび、胸の奥が固まる。
墓参りはいまだにしていない。
責める声は遠雷のように響く。
近づく前に、私は内側の扉を閉める。
怒りが先に来た。
怒りは熱い。
体温が上がる。
背筋が伸びる。
立っていられる。
怒っているあいだは、泣かなくていい。
「怒りは第二感情なんですよ」
カウンセラーは少し擦り切れたカーディガンを着ていた。
私が言葉を吐き終えるのを待ってから言った。
「一番下にあるのは、たいてい恐れです」
帰り道、那覇の湿った夜風が頬に張りついた。
ゆいレールの高架の下で足が止まる。
恐れ。
一人になること。
また失うこと。
間に合わなかったという事実。
怒っている限り、私は強くいられた。
でも、ほんの少し悲しみを認めた瞬間、
胸の奥で何かが崩れた。
ベンチに腰を下ろす。
モノレールが通り過ぎる。
光だけが流れていく。
声は出なかった。
ただ、涙が落ちた。
誰も見ていない。
それでよかった。
その夜、布団の中でスマホアプリの言葉が浮かぶ。
「敵を愛しなさい」
若い頃は笑っていた。
現実を知らない言葉だと思っていた。
でも今は、少し違う。
敵は人ではなかったのかもしれない。
何年も私を守ってきた怒り。
同時に、私を縛り続けていた怒り。
ゆっくり息を吐く。
赦すというより、
握りしめていた手を少し緩める。
何も変わらない。
両親は戻らない。
時間も巻き戻らない。
ただ、胸の奥の張りが、わずかにほどける。
怒りのいちばん下にあったもの。
愛されたかった。
父に。
母に。
去っていった人たちに。
そして、自分に。
アレクサのリングが青く光っている。
時計は二時十七分。
腹の奥の鈍い感覚は消えない。
眠気も来ない。
でも呼吸は、さっきより深い。
間に合わなかったことは、
愛していなかったことじゃない。
冷蔵庫が、もう一度うなった。
私は目を閉じる。
部屋は静かだった。
この物語は終わっていない。
だから私は、今日も歌う。